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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)3058号 判決

控訴人

甲山花子

右訴訟代理人

涌井鶴太郎

右訴訟復代理人

小川裕之

被控訴人

甲山太郎

右訴訟代理人

清野春彦

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用及び認否は左に付加し、控訴代理人が乙第一号証を提出し、被控訴代理人が右乙号証の成立を認めたほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴代理人の陳述)

被控訴人は、本件訴の提起以前に、控訴人に対する離婚請求に係る訴を提起し(以下、この訴を「前訴」という。)、新潟地方裁判所昭和四四年(タ)第一七号離婚等請求事件として係属したが、昭和四五年五月一三日被控訴人敗訴の判決の言渡があり、同年九月六日右判決は確定した。原判決は、被控訴人の本件離婚請求を民法七七〇条一項五号の事由があるとして認容したのであるから、前訴の確定判決に牴触し、許されないものというべきである。

(被控訴代理人の陳述)

前訴の訴訟係属、判決の言渡及びその確定は、控訴人の主張するとおりであるが、前訴の判決の既判力は、前訴の口頭弁論終結時における被控訴人の離婚請求権の存否についてだけ生じ、その判決の理由の判断には及ぼないのであるから、原判決の理由中の判断が前訴の確定判決の既判力に触れることはありえない。

理由

被控訴人の控訴人に対する離婚請求に係る前訴(新潟地方裁判所昭和四四年(タ)第一七号離婚等請求事件)につき、昭和四五年九月六日被控訴人敗訴の判決が確定したことは、当事者間に争いがないが、前訴の確定判決の既判力は、その口頭弁論終結時(昭和四五年五月一三日の前であることは〈証拠〉により認められる。)における被控訴人の離婚請求権の存否につき生じ、その判決理由中の判断には及ばないから、控訴人の主張する判決の効力の牴触はありえない。

被控訴人と控訴人との婚姻からその破局に瀕するにいたる経緯については、原判決がその理由において説示するとおり(原判決一〇枚目―記録一七丁―表三行目から同一四枚目―記録二一丁―表四行目まで、ただし、原判決一二枚目―記録一九丁裏一行目「絹江は」以下同三行目「なかつた。」までを「昭和四二年二月頃、被控訴人は、委細構わず、東堀店に絹江を迎い入れ、また、アパートを借り、控訴人との婚姻解消を当然の如く予定して、絹江と同棲するにいたつた。」と改める。)であるから、これを引用する。

右に引用する原判決の認定事実よれば、現に控訴人と被控訴人との婚姻関係の継続が事実上困難になつたのは、もつぱら、控訴人が妻である被控訴人を差し措いて、絹江との同棲関係を堅回に構えていることによるものといわざるを得ない。従つて、控訴人さえ絹江との婚外関係を解消し、よき夫として被控訴人のもとに帰り来るならば、いつでも夫婦関係は円満に継続しうべきはずであり、右は、控訴人の意思如何にかかることであるから、かくの如きは未だもつて民法七七〇条一項五号の「婚姻を継続し難き重大な事由」に該当するものということはできないと解するのが相当である。控訴人が前訴以来離婚拒否を一貫して変えないのを、主として、被控訴人と絹江とに対する女としての意地や憎しみの発現とみるのは、一斑にとらわれすぎたものというべく、むしろ、女の細腕をもつて、よく重労働に堪え、流産や早産の憂目にあいながら、魚の行商に身を挺し、被控訴人の度重なる浮気にも拘らず、ひたすら生計のために被控訴人に連れ添つて苦節十年、困窮を克服して今日の家産の礎を築き上げた(このことは、原審における控訴人の本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により十分窺われる。)控訴人のいまの地歩を尊重すべきであり、控訴人の離婚拒否は、糟糠の妻は堂より下さずとされる妻の座への再認識を被控訴人に厳しく求めるものというべきである。

以上の理由により、被控訴人の控訴人に対する離婚請求は、その理由を欠くものというべきであるから、これを失当として棄却すべきである。

よつて、右と結論を異にして被控訴人の離婚請求を認容した原判決は不当であるから、これを取り消し、被控訴人の請求を棄却することとし、民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(田宮重男 中川幹郎 真榮田哲)

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